Geek Love Project Vol.4 展覧会《Collective Memory / 共有される記憶と、その伝承》with 尾角典子&ヘレン・パパイオアノ
@ギャラリー工房親CHIKA (2022/07/22)
Geek Love Project Vol.4
展覧会《Collective Memory / わたしの物語を考える》
= 共有される記憶と、その伝承 =
with 尾角 典子&ヘレン・パパイオアノ ➕ 哲愕カフェby NAoK
この度、日英作家によるオーディ-オビジュアルパフォーマンス作品の紹介と、お集まりいただいた参加者の皆さまとともに繰り広げる”対話のアクティビティー”(鑑賞を読み解く"哲学カフェ")を開催いたします。
日本では未だあまり聞き馴染みのない“オーディオ-ビジュアルパフォーマンス”を手掛ける英国在住のアーティスト、尾角典子(アニメーション)& ヘレン・パパイオアノ(作曲/サックス演奏)による作品《THAT LONG MOONLESS CHASE / その長い月のない追跡》 (初演2021年)をライブ上演いたします。
2004年にイギリスのテート・モダンがタイムベースドメディア作品のアーカイブや保全を目的に新設部門を創設して以降、オーディオ-ビジュアルパフォーマンスは近年益々注目が集まるジャンルの一つです。これらの分野はテクノロジーとの結びつきが深く同時代性や臨場感を視覚と聴覚、そして、肌感覚でリアリティーをライブ体験できることからよりイマーシブな鑑賞体験が可能です。
今回ご紹介する、尾角とパパイオアノによる作品《THAT LONG MOONLESS CHASE / その長い月のない追跡》 (初演2021年)は、彼女たちが母国で伝え聞いた民話や伝承をもとに再構築し、現代社会を映し出す”新たな物語”へと再提示したものです。
例えば、本作に登場する天明の大火(天明8(1788)年)から本願寺を救ったとされる『水吹き銀杏』(または、『逆さ銀杏』)の伝説は尾角の故郷、京都の言い伝えであり、新約聖書の『受胎告知』に起源をもつ『ガブリエルの猟犬』の昔噺はパパイオアノが住まうシェフィールド(イングランド中部の工業都市)に伝わる民間伝承です。本来、西洋では守護神や番人のメタファーとされる犬たちが奇声をあげて夜空を駆け巡る“ガブリエルの猟犬”のストーリーは超常現象の一つとして、死や災害の予兆として描かれています。また、それらの犬に関する迷信的な解釈は多岐に渡り、古くはシェイクスピア(1564-1616)の『リア王』にさかのぼり、近年では、「グリム」や「死神犬」といった名称で、英国人作家J・K・ローリング(1965-)のファンタジー小説、『ハリー・ポッター』にも登場しています。
尾角とパパイオアノは本作を制作するにあたり、二人の故郷のイメージ写真やサウンドスケープ(本願寺のお経やシェフィールドの心霊スポットの音etc.)を互いに交換しフォトモンタージュや音のパレットの重奏を重ねていきます。更に、それぞれのバックグラウンドに語り継がれる民話や伝承といった”Collective Memory”(集合的記憶)、すなわち、”共有される記憶”を持ち寄り、日本語と英語で綴られる各物語のテキストをA I機械翻訳エンジンを使って幾度となく変換を加えていきます。その姿はまるで銀杏の葉の集積を踏み鳴らし駆け回る子どものようでもあり、一方、近年、益々ブラックボックス化するWeb社会の荒波を自らのストーリーへとアップデートしていくインタープリター然としたプロフィールを混在させます。イノセントさと恣意的さ、そして、東西それぞれの歴史的な記憶をない交ぜにする
ことで神秘的な世界を紡ぎ出していきます。アナログとデジタル、生音とサンプリング音声といったイメージの同調と反復、予期せぬバグとエラーがもたらす多層性は東西における個々のストーリーを侵食し、“共有される記憶“だけではこれまで知る術もなかった”新たな物語”を可視化していきます。
不思議なことにそこには東洋らしさや西洋らしさといったステレオタイプなイメージはそぎ落とされ、フラットなイメージへと昇華していきます。そのプロセスは色や光の三原色が互いに入り混じることで”ブラック”と”ホワイト”に転化していくように、マニエール・ノワールの…、シネマトグラフの…、そして、モノクロアニメーションといった複製技術時代のメディア表現の原点回帰に付することさえも暗喩しているように感じられます。ぜひ、日英合同作品《THAT LONG MOONLESS CHASE / その長い月のない追跡》 の序章からクライマックス、そして膝を打つエピローグにご注目下さい。
なお、本作品のタイトルである《THAT LONG MOONLESS CHASE / その長い月のない追跡》といったテキストはAI機械翻訳エンジンによって変換と生成を重ねた末に残った言の葉の痕跡だと聞きます。世界が新型コロナウイルスの感染拡大により未曾有の事態で混沌とするなか、彼女たちがオンライン上のモニター越しにこれらのテキストを見つけたとき、不思議な縁(えにし)を感じたのではないでしょうか。そこにはどんなにサイエンス・テクノロジーが発達したとしても、かつて月面着陸を叶えた人類の叡智による言霊が暗海から“follow me、follow me・・・”と語りかけてくるようで、その響きには形容しがたい趣と気概があります。今日、ウクライナ侵攻や、ネット上の誹謗中傷、パワーバランスの不均衡から生じるハラスメント問題など、私たちを取り巻く周辺は社会課題に溢れています。ですが、もし、”共有される記憶”(Collective Memory)から生まれる歴史性を縦横斜めにつながる共同体として互いの靴をシェアすることができたならば、私たちは民族や言語、世代を超えて、“新たな物語“を語り継ぐことができるのではないでしょうか。
アーティストとはそんな世界観への道筋を照らす”共有される記憶”を蒐集するアーキビストのような存在なのかもしれません。
2023年7月22日、”共有される記憶”(Collective Memory)をテーマに、それぞれの“わたしの物語”について考える機会となりますことを、私たち一同、楽しみにしております。ぜひお運びください。
Geek Love Project
キュレーション:藤本 ナオ子
https://www.naokfujimoto.com/blank/tenrankai-collective-memory-watashinomonogatariwokangaeru
★About : Geek Love Project Vol.4 :尾角典子&ヘレン・パパイオアノ凱旋記念公演
主催:Geek Love Project|異形の愛製作委員会 (企画・制作)
共催:ギャラリー工房CHIKA(東京)https://www.kobochika.com/
共催:monade contemporary|単子現代(京都)https://monadecontemporary.art-phil.com/
協力:哲愕カフェ by NAoK(東京)https://www.naokfujimoto.com/event-dialogue
後援:ブリティッシュ・カウンシル
★チーム東京公演スタッフ(五十音順・敬称略)
荒川友加理、尾角朋子、中谷尚生(工房親)、水品真実、山口貴子、米窪由樹子
Dubinch・ミーアキャット美秋ガール(音響P A /Sound Bar Pure’s)
https://www.naokfujimoto.com/blank/tenrankai-collective-memory-watashinomonogatariwokangaeru